グラフィックデザイナー・イラストレーターの小島武さんが10月4日に亡くなった。
個人的にはちょっとの期間のお付き合いしかなかったけれど、スケールの大きな人柄で、僕の目標とすべき大人の人でありました。
1998年頃に僕はDVDというものに飛びついて、「これからはコレだ!」とばかりに古川タクさんを口説いて第一弾「タクン・フィルムズ」を制作することになりました。
ところがいつまで経ってもジャケットが出来てこないことに業を煮やしタクさんに詰め寄ると、「友人の小島に頼んだ」と言う。その名は良く知らなかったけど、どうやら業界で注目されている大物らしいことが聞こえてくるではありませんか。まず心配したのはギャラで、「そんな枠はアニドウにありませんよ」と言うと「わかったわかった」とタクさんタームで片付けてくれることになった。一安心したけれど、さて、新宿三丁目の事務所へ取りに何回行っても、デザインは完成しなくて、工程はどんどん遅れてしまった。普通なら「いい加減にしてくれ!」という場面だが、壁一面に貼られたプリントアウトを見ながら「どれがいいかな」とか取り組んでいる格好を見せられて、すっかり小島先生のペースにはめられて、飲んで帰るばかりの日が続いた。ある時は内装を変えたという苦労話、ある時は近所の理髪店についての噂話、などなどで煙にまかれた。そして帰りには、へぎそば屋、中華、ワイン酒場などたったひとつの仕事のためにいろいろな所を案内されて楽しく、しかもなんだかいつも奢られてしまっていた。本当はこちらが接待しなくてはいけないのに、気がつくときれいな奥さんがサっと支払ってしまうのだった。
直前の仕事が井上陽水の「九段」というアルバムのアートディレクションで、その出来上がりを見て、いやあ大物だなあと感心して、うちのDVDをやってもらうことを単純に喜んでいたのだが、今日訃報を聞いてから改めてネットなどで調べると、天才イラストレーターとして、また才気走るアートディレクターとして雑誌を手がけたり、松本俊夫監督の「薔薇の葬列」なんていう映画に出たり、とんでもない活躍をしているではないですか。知っていたら、とても頼んだり飲んだりできなかったと遅まきながら思うのです。桑沢デザイン研究所の講師などで、うるまでるびさんなども教えていたんですね。
沢木耕太郎や別役実さんの本の装画や、歌の作詞なんかもやっている。60年代からずーっと活躍しているなんて面白い時代を駆け抜けているから、あんなになんでも面白がる、好奇心丸出しの大酒飲みのおじさんが出来るんですねえ。
人生を楽しむオーラが出まくっていて、僕はホレました。
仕事は一度だったけど、それから「三越名人会川本喜八郎の世界」(写真)など何度かアニドウのイベントにも来てもらって、細々と親交を続けてもらいました。
最近は独り身になって、引っ越しをされてここのところ逢う機会がなったけれど、また少ししたら一緒に飲むんだろうと信じていました。でっかい笑顔と張りのある声を聞く機会がないとは残念の極みです。あっちで飲んでください。たぶん岡本忠成さんと逢えばウマが合うはずです。それでは、また。
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